朝日さし花よりひかる椿の葉 後藤 尚弘
朝日さし花よりひかる椿の葉 後藤 尚弘
『季のことば』
椿ほど花期の長い花木は少ないのではないか。植物辞典などによれば「山茶花に遅れて咲き」などとあるが、我が家(東京・中野)の近辺で見かける薮椿の類は、山茶花に負けずに早く咲き出し、二月末、山茶花が散っても咲き続け、さらに三月の末になっても、落ちてまた、落ちてはまた、赤い花をしぶとく咲かせている。
そして椿の特徴にもう一つ、葉のすばらしい光沢がある。椿餅に用いられる葉は上下に二枚用いるようだが、歳時記によれば「光沢を見せるために上下とも表を外側にする」のだという。掲句は赤い花よりも葉の光沢を「花より光る」とし、句に詠み込んだ。春光の増すこの頃は、椿の花の少なくなり、葉の存在感の増す時期でもある。
ところでこの句、「朝日さし」「花よりひかる」と動詞を二つ用いた。「一句に動詞二つ」は禁止事項とまでは言えないが、俳句にはやはり動詞一つがよさそうだ。「上五」は「朝日影」に代えてみたらどうだろう。「朝日影花よりひかる椿の葉」。口調はよくなったと思う。なお「朝日影」の「影」は「光」を意味している。
(恂 21.04.13.)