復旧の一番電車さくら咲く 高井 百子
復旧の一番電車さくら咲く 高井 百子
『この一句』
「上田電鉄別所線全線で運行再開――長野、台風19号で被災」。3月29日付け日経朝刊に写真付きで載っていた。掲句一読、この開通話を詠んだのだと思った。しかも、作者はあの人だろうと想像もついた。句会のみんなも同じだった。
というのも、作者夫妻は上田在住で、自宅前を別所線電車が通っているからだ。その路線が2019年秋の台風で、千曲川に架かる名物の赤い鉄橋が崩落して以来、長い間、代替輸送による不便を強いられてきた。その間、夫妻はその別所線の定点観測を続け、お互いに佳句を連発してきた。
以下、時系列で並べると、「橋墜ちる暴れ千曲の秋驟雨」(てる夫)、「流木を中洲に残し冬千曲」(てる夫)、「鮎来るや千曲は重機工事中」(てる夫)、「復興の千曲川岸霞立つ」(百子)、「春立つや崩落鉄橋繋がりぬ」(百子)。そして掲句に至る。
この句はまた、特定の路線ではなく、震災で被災した三陸鉄道を始め、風水害による各地のローカル線など、読者が自由に舞台を想像できる点でも優れている。
「さくら咲く」という昭和のころの入試合格通知にも似ためでたい季語を得て、句会参加者の半数、10人もが掲句を選んだ。句会では口々に「良かったね。おめでとう!」と祝福の声。正に〝座の文芸〟の面目躍如である。
(双 21.04.04.)