マネキンの胸の膨らむ春の服   塩田 命水

マネキンの胸の膨らむ春の服   塩田 命水 『この一句』  マネキン人形は百貨店、ブティックのウインドウや売り場に置かれ、季節ごとに流行の服を身につける。掲句を字義通りに解釈すると、マネキンが春の服を着たら胸が膨らんだと受け取れる。マネキンは堅い強化プラスチック製が大半である。スリムな体に造形され、生身ではないので、胸が膨らんだり縮んだりはしない。 とすると、冬の間はコートや厚手の服を着込んでいたマネキンが、薄手の春服に着替えたことで、体のラインがくっきり出て、胸が膨らんで見えたということではなかろうか。店先のマネキンの服で春を感じ取った作者の感性が光る。 春の訪れは万人にとって心弾むものであり、外へ出る機会も増える。北風と太陽の寓話ではないが、柔らかな春の日差しを浴びると、重い外套を脱ぎ捨てて軽やかな春の服をまといたくなる。気温と服装の関係を解説したサイトを見ると、摂氏15度を下回るとセーターやコートが必要となり、逆に20度を上回ると上着を脱いでシャツやブラウス姿が増えるという。 愛妻家の作者は春の陽気に誘われ、夫婦で街歩きを楽しんだのではないか。華やかな春の服をまとったマネキンに、作者の心弾む思いも込められているように思う。 (迷 21.03.25.)

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