東京は皆エトランゼ黄砂降る   中村 迷哲

東京は皆エトランゼ黄砂降る   中村 迷哲 『この一句』  この句は東京者を「エトランゼ」に喩えている。「エトランゼ」は日本語にすれば「異邦人」、すなわち「よそ者」である。作者は、首都圏に暮らして四十年を超えるが、いまだに「よそ者」の思いが抜けず、数万キロを飛来し邪魔者扱いされる黄砂に想いを重ねた、と自句自解されている。  筆者はこの句の「エトランゼ」から、久保田早紀自作自演のヒット曲である「異邦人」を連想した。この歌のサビのところの歌詞に「空と大地がふれあう彼方、過去からの旅人を呼んでる道」とある。またもうひとつ連想したのは、カミュが書いた小説『異邦人』である。この小説を読んだことがない人でも「きょう、ママンが死んだ」という冒頭の文言を聞いたことのある人は多いのではないだろうか。フランスの植民地であるアルジェリアが舞台である。いまはもう誰も言わないが、当時は「不条理小説」などと呼ばれ、文学小僧の間でずいぶんもてはやされた小説である。  句の本意は作者の説明される通りであるが、筆者は「エトランゼ」の文言から、「異邦人」の歌詞にあるような旅への郷愁や、カミュやサルトルが活躍していたあの時代への郷愁、のようなものを感じた。黄砂は確かに邪魔者ではあるが、遥かタクラマカン砂漠やゴビ砂漠から来たと思えば、これもまた郷愁を感じせる季節の風物ではないだろうか。 (可 21.03.23.)

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