春一番歩幅広げて黄信号 和泉田 守
春一番歩幅広げて黄信号 和泉田 守
『季のことば』
春一番(はるいちばん)とは、立春の後、最初に吹く南寄りの強い風のこと。春の到来を告げる気象用語として定着しているが、元々は漁師の言葉という。気象庁のサイトなどによると、安政6年(1859)に長崎県壱岐・郷ノ浦の漁師53人が、地元で「春一」または「春一番」と呼ばれる春の強い突風で遭難死し、この事故を機に広まったとされる。民俗学者の宮本常一が壱岐を訪れて言葉を採集、俳句歳時記(平凡社)で紹介して季語として定着したようだ。傍題に春二番、春三番があり、同類の季語として春疾風も知られる。
気象庁は昭和26年(1951)から春一番を観測しているが、立春から春分までの間に、日本海の低気圧に向かってに吹く風速8メートル以上の強い南風と定義している。今年は観測史上最も早く、立春の翌日の2月4日に観測された。作者はその春一番に、買い物か散歩の途中で出会ったのであろう。強い南風に押されるように歩幅が広がる。春の息吹に心を弾ませ、黄信号を大股で渡る姿が浮かんでくる。
結語の黄信号がとても効果的で、季語の春一番と響き合って、福寿草や菜の花など春を彩る黄色い花を連想させる。春を迎えた喜びが真っすぐに伝わってくる句である。
(迷 21.03.17.)