一本の白き森なる大辛夷 星川 水兎
一本の白き森なる大辛夷 星川 水兎
『この一句』
辛夷はモクレン科の落葉高木で、春になると真っ白な花を枝いっぱいにつける。日本全国に自生するが、山地などでは高さ20メートルにもなるという。葉に先立って花が一斉に咲くので、大きな木全体が白く輝いて見える。その様を「白き森」と捉えた感性、表現力が、この句の眼目であり、全てであろう。辛夷の姿・特質をズバリ捉えた「一物仕立て」の句のお手本といえる。
メール形式で開いた句会でも高点を得た。「六義園でしょうか。大辛夷が一本の森だなんて、しゃれています」(百子)、「白き森が印象的」(光迷)など、評者全員が「白き森」の表現に心を動かされた。作者によれば、六義園や新宿御苑で実際に見た大辛夷を詠んだものという。「地面に散った花弁を見つけて見上げると、大きく広がっていて、一つの世界のようだなぁと思った」とコメントしている。その時の感動が「白き森」に凝縮されているのであろう。
ところで六義園は柳沢吉保の屋敷にあった庭、新宿御苑は信州高遠藩の屋敷跡で、いずれも江戸時代の大名屋敷跡である。六義園から近い小石川植物園(旧幕府の御薬園)でも大きな辛夷の木が見られる。春風に誘われ、江戸の遺産ともいえる庭園を訪ね、辛夷の「白き森」を見てコロナの憂さを晴らしたい。
(迷 21.03.08.)