子を胸にスマホ片手に東風を行く 金田青水
子を胸にスマホ片手に東風を行く 金田青水
『おかめはちもく』
女性の句だと即断してしまった。幼子を(左手で、だろうか)胸に抱いている。そして右手にスマホを持ち、誰かと会話を交わしながら、東風(こち)の吹く中を一歩一歩、前に進んで行く。たいへんだなぁ、すごいなぁ、若いお母さんは、と同情した。ところが作者が分かって、拍子抜けした。句作りの名手と認められている堂々たる男性の作であった。
男性が女性の姿や行動を見て、それを句にしても何ら不都合はない。作者が自らの姿を隠し、異性風に詠むのも、もちろんOKである。女性の句だと思い込んでしまったのは、当方の判断によるもので、それについて作者に文句を言う筋合いはない。しかし、句の構成についての考えを述べるのならば、許して頂けるかも知れない、と考えた。
この句、上下をひっくり返してみたらどうか。即ち「東風を行くスマホ片手に子を胸に」とするのだ。上五から中七、下五へと次第に劇的になって行くはずだ。さらに東風はどちらかと言えば緩やかに吹く風だと思う。ならば上五は「強東風や」と行く手もある。作者にお願いする。句の直しは、勘違いの悔しさをぶつける紙つぶてほどに受け止めて頂きたい。
(恂 21.03.03.)