6ミリのバリカン坊主東風強し 谷川 水馬
6ミリのバリカン坊主東風強し 谷川 水馬
『この一句』
この句の評価のポイントは、何と言っても「6ミリ」の具体性にある。春先に東から吹いてくる東風(こち)にバリカンで刈り上げた坊主頭をぶつけ、早春の荒々しい息吹を感じさせる。6ミリという数字が、具体的な映像を立ち上がらせ、読者の印象を強めている。
床屋でバリカンの刈高を表す単位に、昔は厘や分が使われた。一分は約3ミリで刈高も同じだが、三分刈りは6ミリ、五分刈りは9ミリ程度とされ、必ずしも比例している訳ではない。関西では枚という単位が一般的だったらしい。最近の家庭用のバリカンを見ると目盛が3ミリ、6ミリ、9ミリと3の倍数で刻まれている。
刈高6ミリは、うっすらと地肌が見える程度の坊主頭。散髪後のすっきりした頭を、強い春風が撫でて通り過ぎる。春の訪れをまさに「体感」する一瞬だ。最初に句を読んだ時は「バリカン坊主」の言葉から、少年のクリクリ頭をイメージした。しかし作者は近年、髪を短く刈り込んでいるので、自分のことを詠んだのかも知れない。
みんなの俳句のバックナンバーに「禿頭をすべりゆく風春浅し」(水牛)という句がある。髪の少ない頭ほど、季節の変化を捉える敏感なレーダーになるようだ。
(迷 21.03.02.)