梅東風や絵馬に「けい算がんばる」と 嵐田双歩
梅東風や絵馬に「けい算がんばる」と 嵐田双歩
『この一句』
「東風」と言えば、大方の日本人は菅原道真の「東風吹かば匂ひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな」の歌を思い出す。それに「絵馬」を掛け合わせれば、これは間違いなく天満宮あるいは天神様の話だろう。しかも単なる「東風」ではなく「梅東風」なのだから、いよいよもって天神様の話だろう。
学問の神様である天神様の絵馬と言えば、なんと言っても合格祈願の絵馬である。大学入試はもとより、中学受験、国家資格試験など、この季節の境内には、さまざまな合格祈願の絵馬がぶら下がっている。第一志望だけをきっぱり書いたものもあれば、細かい字で多くの志望校が並び、こちらが受験料の心配をしてしまうものもある。
この句のハイライトは「けい算」の「けい」の二文字である。仮にそれが「計算」と漢字表記されていても、句の意味はまったく変わらない。けれども、句が表現する世界はまったく違うものになる。「けい算」が彷彿させる、あどけない子供の姿が消えてしまう。さらに言えば、この句は実は神様になにも祈願していない。「ボクは頑張るから神様見ててね」という健気な句である。この絵馬に出会った作者の幸運と、それを見逃さなかった炯眼に一票を投じた。それにしても、子供をダシにするなんて、ずるいなあ!
(可 21.03.01.)