閉校の門のあおぞら辛夷咲く 廣上 正市
閉校の門のあおぞら辛夷咲く 廣上 正市
『季のことば』
春爛漫の代名詞ともいうべき桜はもちろん春の花の最上位だが、辛夷も早く咲くだけ春の幕開けを感じて地位は揺るがない。大ぶりな白い花は清潔感があり、清楚な女性を思わせるとは筆者の勝手なイメージである。都内では六義園の枝垂れ桜と大辛夷が名高いようだ。「朝風や辛夷まぶしき六義園 光迷」「六義園大傘のよう大辛夷 てる夫」も句会に出た。場所はどこであっても辛夷の居場所として不足ない。なにしろ清楚な女性の姿であるからだ。
少子高齢化にともない、最初に小学校の統合や廃校が避けられなくなる。ネットを開いて驚いた。都内しかも都心三区(千代田、中央、港)の戦後の廃小学校は三十五もある。人口減が著しい地方は推して知るべし。作者は北海道出身だから身をもって廃校の現実を見聞きしてきたに違いない。桜は入学の喜びを伝える花に対し、辛夷は卒業の哀感を呼ぶ花と言ってもいいかもしれない。この景は閉校が決まったか、廃校後の小学校と見立てる。くたびれた門の前に立つと哀しいまでの青空。辛夷の白い花が咲いている。卒業生を見送る女教師の姿が重なってくる。辛夷はそんな花であろう。
(葉 21.03.09.)