窓猫の丸き背中や恋終わる 谷川 水馬
窓猫の丸き背中や恋終わる 谷川 水馬
『この一句』
一読、いや一見にして恋の終った牡猫の姿が浮かんで来た。窓際に背を丸めた猫がいる。暖かそうな春の陽が猫に当たっているらしい。そうか、お前はそうやって傷心を癒しているのか、という作者の気持ちも十分に察しられよう。ところが句を何度か見直しているうちに、変わった句だ、作者は何かを企んでいるのかな、という思いが膨らんできた。
「窓猫」という語は辞書に載っていない。季語では「竈(かまど)猫」や「こたつ猫」もあるのだが、「窓猫」は作者の独創のように思える。さらに「窓猫」と「恋終る」は上五と下五に分裂しているので、「これで季語になるのか」と異を唱える人がいるのではないだろうか。また「窓猫」がガラス戸の内側、外側のどちらにいるのかも不明である。
とは言え、私にはこの句がなかなか魅力的で、兼題「猫の恋」の三十余句の中から一番に選ぶことになった。理由については、背を丸めた「窓猫」の姿に本当の「猫の恋」を感じたから、と言えばいいだろう。さらに加えれば、このところ背中の丸いご同輩たちの姿が気になっていることもある。私ももちろん、その中の一人なのだが・・・。
(恂 21.02.21.)