梅東風やアマビエに似た子が一人 今泉 而云

梅東風やアマビエに似た子が一人 今泉 而云 『季のことば』  立春を過ぎて、西高東低の冬型気圧配置がゆるむと、これまでの北西風と違って柔でやや暖かい東風が吹いて来る。これが春を告げる風として平安時代から歌人文人に親しまれ、江戸時代には俳句の季語にもなった。「朝東風」「夕東風」などのほか、この風が吹くと鰆が盛んに取れだすから「鰆東風」、のどかな雲雀のさえずりとともに吹くから「雲雀東風」などとも詠まれる。  「梅東風」は言うまでもなく梅を咲かせる東風であり、菅原道真の「東風吹かば匂ひおこせよ梅の花あるじなしとて春を忘るな」の歌と共にしっかり定着した。  この句は南斜面に広がったのどかな梅園での一コマであろうか。一人歩きできるようになった子が、お兄ちゃんお姉ちゃんの後を追って行ったはいいが、置いて行かれてしまい、ぼんやり佇んでいる情景が浮かぶ。  アマビエは熊本地方に伝わる民間伝承の海の妖怪。と言っても恐ろしくはない。人魚のような姿で可愛らしい。その絵姿を身近に置けば疾病退散のご利益があるというので、コロナ禍の昨今にわかに人気が出て、シールや人形が次々に売られるようになり、ついには文楽人形浄瑠璃にもなったという。私も実は「門口にあまびえシール春立つ日」などと詠んだ。令和3年コロナ禍の梅見の句としてとても面白い。 (水 21.02.18.)

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