外国語放送虚し冬の駅      荻野 雅史

外国語放送虚し冬の駅      荻野 雅史 『この一句』 「ローカル線の駅の一風景だと思います。外国人観光客であふれかえっていたのに、いまや影かたちも無い。ただ外国語放送だけが虚しく響いてる。『冬の駅』がその辺をよく表していると思います」(明生)。「インバウンド需要は望むべくもなく、五輪もどうなることかと思わせます」(芳之)。この評言二つで全てを言い尽くしているのだが、「国際観光振興」とか「観光産業活性化」などというものは、つくづく平穏無事な世の中であればこそのものだと思う。 安倍政権の7年半で日本はすっかりダメになってしまったと私は思っているのだが、唯一拾うべきは外国人を呼び込んで、田舎にまでガイジンの息吹を吹き込んだことであろう。個人的には日本の国際化などまっぴら御免と思っているのだが、今やそうも行かないようだ。さすれば、国際化に遅れた日本を国際化する最も有効な手段は日本人と外国人との接触を深めることである。 とにかくここ数年で浅薄ではあるが日本の国際化は急速に進んだ。「ガイジン」が僻地にまで行くようになったからである。75年前、進駐軍が全国くまなくジープを駆って日本を強制的に“国際化”したが、この数年は言うまでもなく観光旅行によるごく自然な触れ合いである。 それがコロナで吹き飛んだ。駅構内や電車内の外国語放送はプログラミングされているから、ガイジンさんの来ようが来まいが流れる。凍てる駅舎にそれがキンキン響いて寒々しさを掻き立てる。 (水 21.02.14.)

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