五両ほど畳に零れ実千両 玉田 春陽子
五両ほど畳に零れ実千両 玉田 春陽子
『この一句』
この暮、正月用の花を近所の花屋で買ったら、普段の二倍ほどの値段になった。「高いね」と主人に言うと「何しろ千両が入っているからね」との答え。そうかね、と頷いてから、我が家の庭に千両が赤い実をたくさんつけていることを思い出した。“猫のひたい”の庭に五年ほど前から万両が芽を出し、今では赤い実が近所の人に褒められるほどになっている。
万両は小鳥が実を食べ、糞とともに庭に落してくれると芽生えるそうだ。実が付いたものを花瓶に一枝挿せば、生け花の立派な脇役を務めてくれる。掲句の千両は暮から一か月余りを経て、ついに畳の上に五粒ほど零(こぼ)してしまったのだ。それを「五両ほど」とは何たる機知だろうか。この洒落っ気に感嘆し、しばらく句を見つめていたほどであった。
あんまり巧みなので悔しくなり、「ちょっと月並風かな」と悪口を呟いてみた。正岡子規の批判に遭い、滅亡してしまったと言われる月並流の俳句。洗練されたエスプリの句も少なからずあったはずで、決して捨てたものではないと考えている。さてこの句、秀句、好句、佳句には当てはまらないかも知れないが、現代の上等な月並流と評価したい。
(恂 21.02.12.)