鎌鼬鬼滅の刃受けしかな     須藤 光迷

鎌鼬鬼滅の刃受けしかな     須藤 光迷 『この一句』 たいへんな鬼滅ブームである。漫画本や大ヒット映画を見たことがない大人でも大方が知っている。アニメに特有の、数ある聖地めぐりも盛んだという。なかでも奈良・柳生の庄にある天之石立神社には、剣聖柳生石舟斎が一刀のもと、真っ二つに断ち割った伝説をもつ巨石があり、ファンに人気の聖地となっているようだ。 難物季題「鎌鼬」のことである。自然現象のひとつ、冬に小さなつむじ風が一瞬真空状態をつくって、人間の皮膚を切るのだと解説されている。越後七不思議にも数えられ、冬の季語に。思い当たることのない切り傷はたしかに面妖だ。昔は鶏小屋を狙ってくるすばしこい鼬の仕業としたのだろうかと想像する。 この句では、覚えのない切り傷は鬼滅の刃を受けたせいだと言う。作者はお孫さんにせがまれ映画を観にいったのかもしれない。そうなら鬼退治に快刀乱麻する主人公らの活躍が目裏に残ったのだろう。難物季題に対して、今もっとも旬の社会現象を持ってきたところに俳句とトピックの融合がある。時事句として成功したと思うのである。鬼滅ブームは世界百三十か国に広がっているともいわれ、今後しばらく色あせない時事句ではないかと一票を投じた次第である。(葉 21.02.09.)

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