小走りの新聞少年鎌鼬 大沢 反平
小走りの新聞少年鎌鼬 大沢 反平
『季のことば』
鎌鼬(かまいたち)は日経俳句会1月例会の兼題だった。冬の乾燥した風が巻き起こす真空によって、皮膚が切り裂かれる現象だという説がある。
冬場の外遊びが減り、防寒着が普及した現代では、経験する人がほとんどいない難解季語といえる。例会の投句を見ると、昭和の前半に少年期を過ごした人には、幼い頃の体験を詠み込んだ句が結構あった。これに対し、昭和後半から平成育ちには、季語の鎌鼬に身辺の出来事を取り合わせたり、何かを斬るイメージを詠んだものが多かった。
その中で鎌鼬・経験世代の作と思われるこの句に共感し、点を入れた。「小走りの新聞少年」という措辞で、冬の早朝に寒さに耐えながら、小脇に抱えた新聞を配達する姿が浮かぶ。今や死語となった新聞少年だが、昭和30年代までは小遣い稼ぎや家計を助けるため、多くの小中学生が配達を担っていた。その少年を一陣の風が襲い、気が付くと皮膚が裂けている。健気な少年と鎌鼬が違和感なく結びつき、読者の記憶を呼び覚ます。
実は鎌鼬の兼題解説を書いた水牛さんが、その中で新聞少年時代の体験に触れている。この句はそれに触発されたものかも知れないが、子供たちが逞しかった昭和の時代感と季節感を活写していると思う。
(迷 21.02.08.)