初詣葛餅分け合う老夫婦 野田 冷峰
初詣葛餅分け合う老夫婦 野田 冷峰
『季のことば』
新春にふさわしい、ほのぼのとさせられる一句である。令和三年一月九日、亀戸七福神をめぐり終えると名物の葛餅屋。そこで目にとめた情景を一句に仕立てた。「老夫婦の幸せそうな景が眼にうかびます。私もこんな夫婦にあやかりたいです」(春陽子)という評には同感である。表現には何の作為も凝らさず、見た景をすっと言い留めた素直な作り方。そこがいい。
しかし、である。この時点で東京には新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言が発令されていた。「高齢者は重症化しやすい」ことは先刻承知で、「外出するな」「ステイホーム」などと叫ぶ声をよそに、天神様に無病息災などを祈願し、葛餅を分け合っている老夫婦に、仲睦まじさとともに歳月に磨かれた生活の知恵を感じる。
「葛餅は夏の季語。季語が二つあるのは…」と難癖をつける人がいるかも知れない。しかし、どうみても「初詣」が主で、動かない。逆に言えば「葛餅」は年中あるものだ。芭蕉によく似た句があった。「梅若菜丸子の宿のとろろ汁」である。「梅」も「若菜」も春(現在「若菜」は新年)で「とろろ汁」は秋だが、季節は明白だろう。
(光 21.01.29.)