遠見の木近付くほどに冬桜    水口 弥生

遠見の木近付くほどに冬桜    水口 弥生 『この一句』 道の遠くに街路樹と少し違う枝ぶりの木が見える。ぼうっと霞んだように見える。自分の目当ての場所はその方向だから、眺めるともなく時々見やりつつ近づいて行く。 十メートルほどになると、はっきりした。なんと冬桜ではないか。ぼうっと霞んだように見えたのは、枯枝に一杯ついた花だったのだ。思わず早足になり近寄って見上げた。 冬桜は春のソメイヨシノは言わずもがな、地味なヤマザクラやオオシマザクラに比べてもずっと地味な咲き様である。高さ3、4メートルの木に数え切れないほど咲いているのだが、春の桜と違って、花と花の間隔がかなり空いているし、花びらが小さく、色合いも白っぽいから心なしか寂しい。けれども周囲の街路樹はすっかり葉を落としており、うら寂れた景色の中だけに目立つ。健気さといったものをも感じる。「この寒さの中でよく咲いてくれたのね」と、思わず独りごちを洩らす。 「遠見の木」と置いて、「近付くほどに」と続ける。読む側としては思わず引き込まれる。「それはね、フユザクラでした」と種明かし。なんとも効果的で、上手な詠み方だなと感心した。 (水 21.01.17.)

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