城跡に郷土館あり冬桜      須藤 光迷

城跡に郷土館あり冬桜      須藤 光迷 『この一句』  句の「城跡」は読んで字の如く、お城の跡である。名古屋城、姫路城、熊本城のような堂々たる天守閣はもちろんなく、櫓もないような“名もなき市民城址公園”を思い浮かべたい。おそらく第二次大戦の数十年後、周囲の濠跡を整備、復元し、公園らしい雰囲気が生れて来た。その頃から市民の間に「記念館でも」という声が生まれ、こじんまりした郷土館が建つ。  正式な職員は館長役の市役所元課長が一人。郷土史家を名乗る地元の市民がボランティアで手助けし、受付と事務の女性が一人ずつ、というような人員が想像される。他の都府県から観光客がやってくるほどの施設ではない。小中学校の団体がたまに見学にやってくるが、あとは都会に職を得ている元市民が、帰郷した際にぶらりとやって来るくらいのものか・・・。  「冬桜」の持つ儚げな魅力が、以上のような想像を産んだのなのだろう。弘前城や大都市、中都市の城にある堂々、華麗の桜とは異なる、楚々とした冬桜こその力なのだ。私は句会の兼題「冬桜」に最も相応しい作品は、と投句を見渡し「この句だ」と決めた。小さな、しかし端正なたたずまいの郷土館とその脇に立つ冬桜の情景が、私の頭の中に浮かんで来て今も消えない。 (恂 21.01.10.)

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