夜回りに女の声のまざりけり 鈴木 雀九
夜回りに女の声のまざりけり 鈴木 雀九
『この一句』
「火の用心」を唱えながら拍子木を打って、何人かのグループで町内を巡回する夜回り。かつてどこの町内でもやっていた冬の行事だが、今でもやっているところがあるのだろうか。
その夜回りの声がすると思ったら、なかに女性の声がまじっている。「あれ!女の声だ」と思う。ただ、それだけのことを詠んだ句である。一読して男性の句だとわかる。
昔の夜回りは男ばかりだった。女性が動員されるのは、茶菓の用意など詰所での役割が主で、女性が外回りをすることは滅多になかった。それが、当節では女性も夜回りに出る。何も不思議な話ではない。でも、この作者は「あれ!女の声だ」と少し驚いたのである。おそらく女性特有の少し甲高い声だったのだろう。いったい、どんな女性だろう?声は聞こえても、作者にもその姿は見えない。あれこれ想像、あるいは妄想しただろうか。いずれにせよ、女性の声が聞こえるのはちょっといい気分。それが読み手にも伝わって来る。
筆者は合評会で、この句の下に「万太郎」と書いてあれば、「やっぱり、万太郎の句はいいな」と言ってしまいそうな句だと評した。思わず口を突いてしまったのだが、言い過ぎたとは思わない。「女の声のまざりけり」の措辞は、くどくど説明することなく、切字の「けり」が効果的に使われている。なんとも言えぬ艶があり、読後に余韻のある句である。
(可 20.12.31.)