師走来る嗚呼嗚呼嗚呼と鴉鳴く 久保田 操
師走来る嗚呼嗚呼嗚呼と鴉鳴く 久保田 操
『この一句』
12月に入ると新聞などに十大ニュースが掲載される。社会部長が選ぶ十大ニュースというのもある。年の終りに一年を振り返るのは人の常で、家族で「わが家の十大ニュース」を考えてみるのも面白い。ただ今年について言えば、あらゆる国、機関、家庭のトップニュースは「コロナ禍で暮らし一変」であろう。
掲句はこの一年の感慨を「嗚呼嗚呼嗚呼」という鴉の鳴き声で象徴させる。中国武漢での発症に始まり、クルーズ船騒動、緊急事態宣言、マスク不足、GoToトラベル、第二波・第三波の襲来と、走馬灯のようにニュースが浮かんでくる。政府の後手後手の対応もあり、コロナ籠りを強いられたまま年が暮れようとしている。まさに嘆き、怒り、諦めの一年である。
「嗚呼嗚呼嗚呼」の表現からは、そんな万人共通の思いが読み取れ、句会でも高点を得た。もちろん作者・読者の感慨はコロナに限らないかも知れない。しかしコロナの年だからこそ、鴉の鳴き声がいつも以上に心に刺さってくる。
作者の弁によれば「一年に対する嘆きの思い。私の頭の上で鳴いて語りかけた鴉なので、実景を詠んだ」という。「カーカー」という鳴き声を「嗚呼嗚呼」という漢字に置き換え、しかもそれを三回繰り返すセンスは、ジャーリスト精神そのものではなかろうか。
(迷 20.12.30.)