売り言葉買ってぶらぶら冬桜   中嶋 阿猿

売り言葉買ってぶらぶら冬桜   中嶋 阿猿 『この一句』  「売り言葉を買った以上は対決しなきゃいけないのに、ぶらぶらしていて度胸もない。可哀そうなおじさんだと、同情から採りました」とは三薬さんの選評。一方、鷹洋さんは、「買った以上、闘わなければならないのに、何だかはぐらかされたので採らなかった」という。  「売り言葉に買い言葉」の後は、激しくやり合うバトルが始まるのが通り相場。身近な例では、夫婦喧嘩だ。ささいな口喧嘩がエスカレートして、のっぴきならない所まで行き着く。誰しも思い当たる節はあるのではないか。しかし、この句の場合は「買ってぶらぶら」と何事も起こっていないようだ。そのはぐらかしを面白いと思うかどうかで評価が分かれた。  筆者は展開の妙が気にいって採ったが、「買って」と「ぶらぶら」の間に省略があるのではないかという気がしてきた。職場か家庭で売り言葉を買ってしまい、つい口喧嘩になった。ささくれ立った気分のまま公園か神社辺りをぶらついていたら、思いがけず冬桜に出会い、なんとなく荒んだ気持ちが和んできた。冬桜はソメイヨシノと違って派手さはないが、ものみな枯れる寒い季節にそこだけぽっと灯を点したような風情があって、見つけると何だか得したような気分になる。そう考えると冬桜の季語が生きてくる一句で、句会で高点を得たのも頷ける。 (双 20.12.28.)

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