小春日や銀座稲荷にいなり寿司 星川 水兎
小春日や銀座稲荷にいなり寿司 星川 水兎
『季のことば』
「銀座稲荷」とは? 聞いたような、聞いたことがないような・・・。東京・銀座のどこかで見た気もするが、その名が「銀座稲荷」であったかどうか、はなはだ自信がない。このような場合、辞書や百科事典の類は頼りにならず、何はさて置きパソコンのネットを開く。出て来た何項目かの一つを読んで驚いた。「稲荷神社」を名乗るものが銀座には九つはあるという。
しかもこの小さな神社は会社や商店のビル内や屋上にも鎮座し、「その数は不明」「数え切れない」などの記述もあった。稲荷神とはそもそも稲を象徴する農耕神。「稲荷大明神」「お稲荷様」などと呼ばれ、「食物の神」「狐の神」のほか「油揚げ」「稲荷寿司」なども意味する。京都の伏見稲荷大社を総本宮とするが、屋敷神、企業の守り神として全国に散在している。
小春日の一日。作者は仕事ついでの銀ブラ中、ビルの傍らの小さな銀座稲荷を見つけたのだろう。「おや」と立ち止り、手を合わせた時、小皿の上に置かれた稲荷寿司が目に入ったのだ。「お稲荷さんにお稲荷さんを」。供えた人に洒落というほどの気持ちはなく、稲荷寿司を買えば何時も、銀座稲荷へ一つ供えているのかも知れない。季語の小春日に相応しい情景である。
(恂 20.12.27.)