一村の墓所を抱きて山眠る    今泉 而云

一村の墓所を抱きて山眠る    今泉 而云 『季のことば』  「山眠る」は「山笑ふ」「山装ふ」と並ぶ大きな季語だ。古今詠まれた句の数もおびただしいし、それゆえ類句も数えきれない。山肌に集落の墓どころを抱いている風景は昔からお馴染みでもある。おおよそ墓石の群れは日当たりよい南を向いており、集落を見下ろしている。住人は常に先祖に見守られていると思っているのだろう。奥多摩の村や山梨大月の中央道沿いなどでもしばしば見ることができる。山の木々が葉を落として見通しがよくなったころ、墓石群は以前よりはっきりと姿を現す。  この句は、先祖累代の墓々が盛夏の生命力あふれる様相から、「山眠る」の優し気な、また一面寂しげな様相に変わった山間の光景を活写している。「一村」とは言っているが、以前の村ではないだろう。子どものいる青壮年の一家はもはやいないのかもしれない。筆者は、村の人口が激減してしまった老人ばかりの限界集落と見た。だから昔の生活のにおいがする山裾の集落とは違う今現在の句であると受け取った。類句が沢山あるような気がすると言う出席者もおり、作者自身も当日の最高点の栄誉を受けながらこんなに点が入るとは思わなかったと述べた。がしかし、イメージを今に移せば感懐深い当世の句となると思うのである。 (葉 20.12.25.)

続きを読む