山茶花や路地の出口の道標 塩田 命水
山茶花や路地の出口の道標 塩田 命水
『おかめはちもく』
我が家の所在地は東京都区内とはいえ、その昔は農村地域であった。地主(農家)が農道の両側の農地を宅地として売り始めたのは昭和の初期のこと。やがて農道沿いに家が次々に建ち並び、宅地は年を追って道の奥へ、奥へと広がって行く。細い私道が新たな宅地の中へ、そして左右へと、まるで迷路のように伸びて行った。
子供の頃、その辺りの一角に入り込み、家へ戻る道を見失ったことがあった。句を見て、すぐに路地の情景が浮かんで来た。迷ったのは何処だったか。そうだ、あの辺りだ、と見当がついた。小春の一日、散歩もかねて思い出の場所に行ってみてびっくり。けっこう立派なマンションが、どんと建っていたのであった。
帰りがけにハッと気づいた。「路地の出口の道標」とは? 私は路地内で迷った人への道しるべと思い込んでいたが、解釈を誤っていたかも知れない。「山茶花がいま盛りですよ。ご遠慮なく~」という路地の中への親切な誘いとも思えてきた。即ち「路地に出口の道標」か、「路地の出口に道標」なのか。どちらでもOKと思うのだが。
(恂 20.12.20.)