地球儀の太平洋に冬の蝿     廣田 可升

地球儀の太平洋に冬の蝿     廣田 可升 『この一句』  句を見た瞬間、これはいい、と思った。しかしなぜ気に入ったのか、後で改めて考えてみたが、どうもはっきりしない。絶対に選ぼう、と決めた時の気持ちを思い返してみた。蠅の止まった場所が地球儀の太平洋、というのがユーモラスで面白かったのだろうか。おおらかで、いかにも蠅が止まっていそうな場所だと感じたような気もする。  句の場所は書斎か居間と思われる。冬の日が窓から射し込み、地球儀に当たっている。作者によれば地球儀に蠅が止まっているのを見たことがあるが、その個所ははっきりしないという。「ハワイはどうか」という意見が出た。「拵えごと」という厳しい評もあった。しかし「太平洋」が気に入ってしまった私の気持ちは動かし難い。  なぜ太平洋なのか。なぜ気に入ったのか。真剣に考えても、その理由をはっきりと説明することが出来ない。たったの十七音の短詩だが、各作品の奥にはそれぞれに異なる宇宙が広がっている。句を選んだ理由も、句への思い込みも、選んだ人それぞれに異なるらしい。世界最短の詩・俳句の本領はその辺りにあるのではないだろうか。 (恂 20.12.16.)

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