親子三人鍋つつき合ふ十日夜 大澤 水牛
親子三人鍋つつき合ふ十日夜 大澤 水牛
『この一句』
この句の季語は何か。元旦から七日まで、正月の七日間がそれぞれ季語であることは承知している。夜ならば十五夜や十三夜などもある。しかし、「十日夜」という季語はあるのか。それとも鋤焼や寄鍋などが季語なので、それらを引っ括った「鍋」を季語と見ればいいのか。掲句を見て、こう思った人も多かったのではないか。
季語は「十日夜」である。「とおかんや」と読みならわしている。陰暦十月十日の夜に行われる、無事に稲を収穫できたことに感謝する行事で、子供達が太い縄や藁鉄砲で地面を叩いて回ったりする。神棚に餅を供えるところもある。収穫を終えた土地を鎮めるこの催しは、信越・関東地方を中心とするもの。近畿などでは「亥の子」がこれに似たものとされる。令和2年の十日夜は11月24日だった。
「新嘗祭が天皇家のお祭りとすれば、十日夜は庶民の新穀感謝祭とも言えましょう。今やハロウイーンなどという馬鹿騒ぎに浮かれ、日本独自の風習が忘れ去られていることに寂しさを感じて…」というのが作者の言葉。生活の洋風化に伴ってついえた行事も多い。それに、一昔前は、鍋を囲むのは三人ではなく五人とか七人だったろう。
(光 20.12.14.)