老化です初冬一撃整形医 大平 睦子
老化です初冬一撃整形医 大平 睦子
『この一句』
70代にさしかかると、体のあちこちに不具合が生じる。何か大きな病気ではないかと思って病院に行くと、医師に「まあ老化現象ですね」と言われ、薬を処方されて終わるのが大半だ。掲句は老人なら誰もが経験する出来事を、ユーモアたっぷりに詠んでいる。
ぶつ切りの言葉を並べただけに見えるが、語順が卓抜だ。最初に「老化です」と読ませて何だろうと疑問を抱かせ、「初冬一撃」でヒントを提示し、「整形医」の下五で一気に解き明かす。クイズ問題のような面白みがある。
初冬の季語もピタリはまっている。冷え込んできて、急に腰か肩に痛みを覚えた。慌てて整形外科に駆け込むと、思いがけず「老化です」の診断。「一撃」は体を襲った痛みと、老化を指摘された衝撃の両方を表す措辞ではなかろうか。高齢者の多い句会(日経俳句会)では、「老化と言われ医者と喧嘩したことがある」(鷹洋)など、同様の経験をした人が何人もいて、高点を得た。
作者は長年勤めた会社を、昨夏に60代半ばでリタイアした。見た目も若く、老人(前期高齢者)入りの自覚はなかったであろう。「初冬一撃」からは、無神経な医師の言葉にショックを受けた心情がくっきりと透けて見える。
(迷 20.12.09.)