後ろ手に障子しめたる紋次郎   星川 水兎

後ろ手に障子しめたる紋次郎   星川 水兎 『この一句』  紋次郎はもちろん「木枯し紋次郎」。笹沢左保原作・股旅物の主人公である。「あっしには関りのねぇことで」と言いながら、善き人々を助け、風の如く立ち去って行く。句の場面は、危機の迫る屋敷の一室に忍び込んだところか。「シーッ」と口の前に指を立て、後ろ手に障子を閉めながら家族に事情を知らせ、さてそれからの展開は・・・  「熊坂が長刀(なぎなた)にちる蛍哉」(一茶)。牛若丸に討たれてしまう大盗賊・熊坂長範の暴れ振りを詠んでいる。時代物・ドラマ仕立ての句はなかなか面白い。しかし出過ぎれば「またか」と白けて来る。一つの句会で数か月に一度ほどの出会いなら、まあいいか、と思うが、「たまには」のタイミングが難しいところである。  掲句は、本年初見くらいの新鮮さが私にはあって、“外連(けれん)”のドラマをいろいろ想像し、大いに楽しめた。中村敦夫演ずる紋次郎はこの後、旅笠を被り、道中合羽をはおり、楊枝を咥えて、どこへ去って行くのだろうか。そして上条恒彦の歌う「誰かが風の中に」が、どこからともなく聞こえてくるのである。 (恂 20.12.08.)

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