眼で笑ふマスク美人や枯葉掃き 高石 昌魚
眼で笑ふマスク美人や枯葉掃き 高石 昌魚
『季のことば』
風邪がはやる冬に着けるのでマスクは冬の季語とされる。確かにこれまでは、インフルエンザなどはやり風邪を予防し、自ら罹っていたら人にうつさないため、マスクは冬の必需品だった。ところが、近年は花粉症の人が増え、春になってもマスク姿は減らなくなった。そして令和二年、コロナ禍で季節に関係なく四六時中着用するのが当たり前になった。かくて「マスク」は季節感を失ってしまった。例えばこの一年、日経俳句会に出句されたコロナ時事句の中で、高点を取ったマスクの句は次のとおり。
新入生みんなマスクで誰が誰 杉山 三薬
まだ来ないアベノマスクや初夏となる 髙井 百子
自粛明けマスクの剣士夏稽古 荻野 雅史
掲句はどうだろう。この冬に出された句なので、コロナ下のマスクとみるのが妥当なのだが、本来の冬の季語とみても差し支えないと思う。目は口ほどに物を言う、顔のパーツの中で目ほど重要なものはない。マスクをしていてもそれと分かる美しい女性が、枯葉掃きの手を休め、「おはようございます」とでも挨拶したのだろう。しかも笑顔で。
「マスク美人」という言い方には「マスクをしていたら美人」というニュアンスもなくはないが、ともあれ〝美人〟にニッコリされたら、作者ならずともその日は一日、幸せな気分で過ごせるに違いない。
(双 20.12.03.)