秋晴れに親子並びて影送り 池内 的中
秋晴れに親子並びて影送り 池内 的中
『この一句』
寡聞にして、影送りという遊びを知らなかった。句を最初に読んだ時は、影踏みに類した遊びを想像し、秋晴れの季語としっくりこないと思って採らなかった。
ところが調べてみると、眼の残像現象を利用したちょっと不思議で楽しい遊びという。晴れた日に地面に映った自分の影を、瞬きをせずに10秒ほど見詰めてから空を見ると、白い影が浮かんで見える。陰性残像という現象らしい。すぐに外に出て試したが、びっくりするほど大きな自分の白い影が見えた。
影送りの意味が分かって句を読み返すと、爽やかな秋空の下、楽しげに影送りに興じる親子の姿が見えてくる。影が濃く、くっきりしているほど、残像も明確に出る。秋晴れの日ほどふさわしい天気はない。「親子並びて」の中七に、子供と一緒に遊び、気持ちを通わせる親の喜びが滲む。
影送りは昔からある子供の遊びだが、小学校の教科書に掲載された「ちいちゃんのかげおくり」という物語で広く知られるようになったいう。戦争の悲惨さを伝える内容だが、親子4人で遊んだ影送りが、家族をつなぐ思い出となっている。掲句は幼い頃に影送りで遊んだ作者が、子供にやり方を伝えているのであろうか、仲の良い親子の影が青空に白く、鮮やかに浮かんでくる。
(迷 20.11.26.)