始祖鳥の夢切れ切れに夜寒かな 中嶋 阿猿
始祖鳥の夢切れ切れに夜寒かな 中嶋 阿猿
『合評会から』(日経俳句会)
ゆり 意味が分からないのですが、雰囲気がある。「始祖鳥」と下五の「夜寒かな」が思いもよらず付いている。
迷哲 かけ離れている二物衝撃。「夜寒」とどっか合っている不思議な句です。どこがいいと言われても、フィーリングが合ったということ。
水牛 チンプンカンプンだった(笑)。面白いこと詠むな。始祖鳥のすがれた羽が「夜寒」と合っていないこともない。突拍子もない所に感心した。
ヲブラダ 取り合わせが面白すぎるので多分実体験なのでしょう。始祖鳥のいたころは、地球は今より暖かったなどという理屈が無意味なところが夢だ。
* * *
採った人たちの選評からも、皆々、夜寒に始祖鳥の夢を見たという体験談(?)に拍手喝采したことが分かる。こういうのは頭で拵えたものではなく、ヲブラダさんが言うように“実体験”によるものであろう。こうした奇矯な句を計算づくで作ろうとすると、必ず「わざとらしさ」が浮き上がってしまうものだ。
芭蕉高弟の其角にはこの類の句が多いが、それ等にも其角の直観から生まれたものと、こねくり回した末の句とがあるようで、無論一瞬のひらめきの下に出来た句には難解ながらも読者の琴線に響くものがある。掲句にも同じことが言える。「面白い」と思わせればそれで大成功なのである。
(水 20.11.15.)