金の砂撒いて木犀香を失せり 徳永 木葉
金の砂撒いて木犀香を失せり 徳永 木葉
《合評会から》(日経俳句会)
雀九 実際に最近見ました。こないだの雨で一斉に落ちていた。ものすごい。
早苗 「金の砂」という表現が素晴らしいと思いました。木犀の木を主語にしている点も面白いです。
阿猿 金木犀の花は一斉に咲いて強い香をふりまいたかと思ったら、一斉に散ってしまう。数日前の雨のあとまさにこのような光景を見た。「金の砂」が上手い。
* * *
今年は、金木犀の当たり年ではないか、と句会出席者の口々から聞いた。確かに、あちこちの金木犀から濃厚な香りが、例年より漂っていた気がする。花が咲き誇っていたちょうどその頃、関東地方は無情の雨に見舞われた。雨上がりに近所を歩いていると、住宅街のそこここに雨に打たれた黄金色の花が路上に散り敷かれていた。
その状態を、「金の砂を撒いて」と表現した作者の美意識。さらに、その金の砂はもはや香りを失っているのだ、と鋭い感性で畳み掛ける。「金の砂」の見立て、「香を失せり」の発見。作者の深い観察眼が遺憾なく発揮された素敵な一句だ。
(双 20.11.13.)