冷まじや剣を植えし城の跡 中村 迷哲
冷まじや剣を植えし城の跡 中村 迷哲
『この一句』
句を見た瞬間、歌曲「荒城の月」二番の「植うる剣(つるぎ)に~」が浮かんで来た。「秋陣営の霜の色 鳴き行く雁の数見せて」の後に続く歌詞である。この曲を初めて聴いた中学生の頃、「どういう場面なのか」としばらく考え、やがて浮かんで来た。武将(城主か)が軍勢を前に剣を地面に突き立てて、最後の決戦への覚悟を語る、という状況である。
しかし違うかも知れない、と今回、調べ直したところ、やはり違っていた。落城近し、ではあるらしいが、押し寄せて来るはずの敵に刃を向け、城内に刀をぐるりと植えておく、という説明を読んだ。この場合は刀の先端ではなく、柄の方を植えることになる。なるほど、と頷いたが、敵方が長刀で一薙ぎすれば刀は一度に倒れそうだ、とも思った。
土井晩翠は、瀧廉太郎は、どういう場面を思い描いて、この詩や曲を作ったのだろうか。ともかくこの句によって懐かしのメロディが浮かんで来て消えず、もはや句を選ぶほかはない。選句表の句の上に◎をつけた後に考えた。「冷まじ」は難解季語に類するが、掲句は季語の本意をしっかりと捉えている。それで私はこの句を選んだのだ、と納得した。
(恂 20.11.12.)