一軒に保存魔ふたりすさまじき 池村実千代
一軒に保存魔ふたりすさまじき 池村実千代
『季のことば』
すさまじ(冷まじ)はとても難しい季語だと思う。なにしろ辞書で「すさまじ」を引くと「凄まじい」しか出て来ないのだ。この季語には「凄まじい」の意味も含まれているはずだが、それだけを詠むと「冷まじ」にはならない。歳時記の説明に従って、句に「寒々とした秋の終わりの感じ」を添えるのは容易なことではないと思う。
掲句を仮に「凄まじい」の感じで捉えると、よく言う「ごみ屋敷」となり、その通りに解釈した人もいたようだ。しかし「冷まじ」に乱雑のニュアンスは薄いと思う。ご夫婦が収集癖、買い物好きであったとしても、単にものを集め、散らかしっ放しにしているのではなさそうだ。むしろ句から「整然」の雰囲気が浮かび上がってくる方が好ましい。
「保存魔」という語がこの句のカギを握っている、と思う。二人とも「散らかし魔」ではなかった。自分の物を処分は出来ないが、整理して押入れや居間の隅にきちんと積み上げたりしているのだろう。これならば秋冷の気とどこか通じるものがある・・・。私はそう結論づけてから自室を見回し、「うーむ、凄まじい」と唸ったのであった。
(恂 20.11.06.)