蒼穹をつらぬく尖塔冬めきぬ 和泉田 守
蒼穹をつらぬく尖塔冬めきぬ 和泉田 守
『この一句』
いきなり蒼穹(そうきゅう)という大仰な漢字で詠み出し、尖塔という古めかしい言葉につなげる。日ごろ見かけない二つの堅い言葉が重なり合うと、意識が日常的な光景を離れ、異国へと誘われる。結語の「冬めきぬ」まで読み下すと、欧州辺りの古都で、澄み切った青空にそびえ立つ教会の映像が浮かんでくる。
さらに蒼穹と尖塔という二つの漢字を、「つらぬく」という柔らかな平仮名で結ぶことによって、漢字の硬質さを際立たせている。漢字と平仮名がバランスよく配され、句調だけでなく視覚的にもリズムが感じられる句だ。
冬めくという季語は「あたりの景色の変化や、冬の到来とともに現れる食べ物や衣類などを目にするにつけ、いかにも冬になったなあという気分を表現する」(水牛歳時記)。蒼穹の「蒼」は深い青色を、「穹」は天空を意味するとされる。晴れ渡った日の透徹した青空は、まさに冬到来を感じさせる。その冬空に屹立する尖塔。硬質な空気感も伝わる。作者に聞くと、近年よく訪れるイタリアやスイスで目にした風景をもとに詠んだ句という。
「ヨーロッパの風景がよぎる。青く澄む冬の天空に際立つ十字架の尖塔。気持ちも引き締まる」(操)という句評を見ると、作者の意図は、読み手に十二分に伝わっているようだ。
(迷 20.11.30.)