お向いが更地になりし秋の空   旙山 芳之

お向いが更地になりし秋の空   旙山 芳之 『合評会から』(日経俳句会) 博明 ポカッと一軒分の家が空き地になると、空が良く見えます。爽やかな秋にぴったり。 而云 我が家の近くでたまに見る風景。空って案外、低い所まである、と気付く。 雀九 更地になってみるとあんなことこんなことを思う。秋空の下更地が一層広く見える。 早苗 急に視界が開け、風通しが良くなった感じが伝わります。顔見知りの住民がいなくなった寂しさも「秋の空」という言葉で強まった印象です。 定利 鬱陶しい建物が消えて、青空が何倍にも大きく見える。季語の勝利。        *       *       *   作者のお向かいは長く空き家同然だったが、取り壊されて更地になったという。ぽっかり空いた空間。秋はどうしてもセンチな気持ちになる。而云評のとおり「空って案外、低いところまであるな」と実感したものの、じわり一抹の寂しさも広がる。  風水害による各地の被災地では「もう住めない」と家を捨てる例が多いと聞く。少子高齢化で継げなくなった実家を畳んでしまうケースもあるだろう。掲句は更地に伴う様々な物語を秋天に託し、爽やかながらもしみじみとした景を浮かび上がらせ、好評を博した。 (双 20.10.28.)

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