蜩の声冴え渡る尾瀬の夕     竹居 照芳

蜩の声冴え渡る尾瀬の夕     竹居 照芳 『季のことば』  尾瀬の季節と言えばまず、「夏が来れば思い出す~♪」のミズバショウが咲く頃(6月)である。しかし「ニッコウキスゲ、ワタスゲの7月が最高」と言う人も少なくない。そして相当な尾瀬の通になると、「草紅葉の十月」を推すのではないだろうか。秋も末、十月の半ばになれば、山小屋が次々にクローズしていく時期でもある。  福島、群馬、新潟の三県にまたがる尾瀬の高原・湿原地帯は、行ける時期ならば何時でも何処でも「忘れ得ぬ風景」を心に刻してくれる。そしてさらに、風景だけではなく「音」もあった、と掲句を見て気づいた。作者が尾瀬に出かけたのは、ちょうど今頃だったのだろう。山のベテランに「是非この時期に」と勧められたのかも知れない。  蜩(ひぐらし)の声を聴いたのは日が西に傾き、歩き疲れてようやく山小屋にたどり着いた頃ではないだろうか。小屋の入り口の前にベンチが並んでいた。空気の薄い高原地帯である。疲れ切った作者はリュックサックを横に置き、ベンチに腰を下ろして一休み。そこに「カナカナカナ」と澄み切った蜩の声が届くいたのだ。同じような体験を持つ私は「生涯にもう一度、晩秋の尾瀬に行ってみたい」と願っている。 (恂 20.10.25.)

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