虫の音のふつと止みまたふつと鳴き 嵐田双歩
虫の音のふつと止みまたふつと鳴き 嵐田双歩
『合評会から』(番町喜楽会)
白山 今年は夏が暑くて遅くまで続いたのだけれど、普通の年の秋だったらちょうどこんな感じがしますね。蝉の声が弱くなったところに、虫の音が聞こえてくるような、微妙な感じをよく詠んでいます。
幻水 「虫の音」と「鳴き」が重複しているのが少し気になりましたが、「ふつと止みまたふつと鳴き」は生態をよく捉えていると思いました。
的中 いろいろな種類の虫の鳴き声が響く秋ですね。確かに、虫の鳴き声は、響き渡るかと思ったら、しばらくして鳴き声が小さくなります。「ふつと」という表現に、虫の音が急に変化する様がよく表れていますね。
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「どうしたんだろ」と思っていると、また鳴き出す。いいところを詠んだものだと感心した。
秋の虫には人間を筆頭としてノラ猫や蟇蛙などいろいろな敵がいる。それらが近づく気配を感じ取れば当然鳴くのを止めてしまう。通り過ぎればまた鳴き出す。しかし、そうした外敵が居そうもない時でも、鳴き声が止むことがある。秋の虫たちの合奏にも楽章ごとの休みがあるようなのだ。賑やかな声がふっと止むと秋の夜の静寂が一層際立ち、しばらくしてまた合奏が始まると、なんとなくほっとした気持になる。
(水 20.10.16.)