点滴の音なく速し鰯雲      須藤 光迷

点滴の音なく速し鰯雲      須藤 光迷 『合評会から』 鷹洋 点滴と鰯雲を重ね合わせた視点が尋常ではない。どちらも音なく流れてゆく。過ぎ行く時間を愛おしむ一句。 操 病室から仰ぐ鰯雲。過ぎる静寂の時間。 水馬 同じ模様の繰り返しの鰯雲が、時間を持て余すベッドの中の作者の状態を表しているように思う。           *       *       *  作者によれば十年くらい前に癌が見つかり、血液検査と点滴を繰り返した時の体験らしい。三十分くらいの点滴の間、身動きできないので俳句を考えたりしたとのこと。  この句の「速し」は点滴にかかる。誰も「鰯雲」が速いとは思わない。では「音なく」はどうだろうか。「音なく速し」と一連の措辞になっているので、本来的にはこれも点滴にかかるのだろう。しかし、筆者も含めてほとんどの評者が、「音なく」は鰯雲にもかかるイメージとして捉えている。と言うよりも、ベッドに横たわる作者、病室の雰囲気、仰ぎ見る点滴、窓外の鰯雲、すべてが「音なく」存在すると読みとれる。「点滴」の動と「鰯雲」の静を取り合わせたことで、十七字の〈静寂の時間〉が成立している。余韻の深い句である。 (可 20.10.12.)

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