官邸にマトリョーシカを見る秋冷  杉山三薬

官邸にマトリョーシカを見る秋冷  杉山三薬 『この一句』  長らく新聞社で紙面作りに携わってきた筆者は時事句に興味がある。この句の作者もどうも政治を風刺する句が好みのようだ。今回の政権交代劇を詠んだ句であることは間違いない。前政権の評価には肯定論と否定論があり(中間論もあるか)、もちろんどちらに与するのも個人の自由である。ただ、政治への無関心はやめにして目を曇らせないのが浮世の務めと思うばかりである。  この句はともすれば川柳におちいる寸前、「秋冷」の季語が救ってみごと時事句に仕上げられたと思う。コロナ禍の対応で無力だった総理が退陣したと思ったら、マトリョーシカ人形から次の小型が出てきた。マトリョーシカだから開けるごとに小さくなるのが当然。前のものより大きくなることはないという、痛烈な皮肉が込められている。マトリョーシカの比喩が実に巧みだ。よくぞマトリョーシカという小道具を思い付いたものだ。  加えて背中がぞくっとする「秋冷」の季語もこよなく合っていると思う。「秋さびし」もいいが、秋冷と体言止めが効果を生んだ。合評会で「変われど変われど同じですね」という評も出たが、それでは困るわけで新政権には前政権の数々の負の遺産をさばいて欲しいが、果たして? (葉 20.10.02.)

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