秋草や買手のつかぬ一等地   玉田 春陽子

秋草や買手のつかぬ一等地   玉田 春陽子 『この一句』  トリクルダウンが全国津々浦々まで波及するはずだったアベノミクスは、残念ながら夢物語となってしまった。地方とその中核都市の衰微は覆い隠せない。かつて賑わいを見せた目抜き通りは、シャッターを下ろした廃店舗が軒を連ねているありさまだ。中には更地となって次の活用先をさがしている一角もある。この句はその情景を詠んだものだ。日本経済の失われた二十年(それ以上だという主張もあるが)を象徴する時事句と取るのに無理はないと思う。時事句とはいえ、俳句に直截的な「政治」を持ち込むのは憚れるが、目の前の情景に借りてこれくらい政治に皮肉を言ってもいいだろう。  都区内や近郊都市ではない地方駅前一等地のことと想像する。昔は商売人なら垂涎の土地だったのに、今や更地の草ぼうぼう。郊外のショッピングセンターに客足を取られ廃業をやむなくされた、たぶん老舗だろう無念さが描かれている。名のある秋の草花ではなく、「秋草」という季語が動かせない。秋草には色とりどりの美しいものも多いが、総じて寂し気なのが秋草の本然だろう。なんでこの土地が売れないのと、昔を知る作者の詠嘆が聞こえてきそうな一句である。 (葉 20.09.29.)

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