地方紙に秋草くるみ帰京せり   廣田 可升

地方紙に秋草くるみ帰京せり   廣田 可升 『この一句』  秋草(あきくさ)は、秋の野山に自生する草花の総称である。秋の七草をはじめ、吾亦紅、竜胆など美しい花を咲かせるものが多い。もちろん秋の季語であり、秋の草、色草、千草、八千草といった傍題がある。色とりどりの秋草が咲き乱れる野原は「花野」という季語になる。  掲句はその秋草を摘んで新聞紙に包み、帰京する人を詠む。故郷に帰省したのか旅先なのか、美しい秋草に目を止め、持ち帰ろうと考えた。地方紙という言葉が、自然豊かな田舎の暮らしを連想させ、秋草のイメージに重なる。さらに「くるむ」という表現に秋草を愛おしむ思いが滲んでいる。  地方紙は特定の地域で発行される新聞をさす。戦時中は「一県一紙」に統制されたが、戦後に増え、新聞協会に加盟している1万部以上の地方紙でも71社ある。地元密着のニュースを強みとし、紙面にはその地域の特性や文化が強く表れる。地方から届いた果物などが地方紙に包まれていると、その土地の暮しも一緒に運ばれてきたように感じる時がある。  作者は、そんな地方紙にくるんだ秋草を持って東京に帰る。「帰京せり」という言い切った下五は、持ち帰る心の弾みを表していると見るのが常識的だ。しかし秋草のない都会に帰らざるを得ないわが身を強調することで、秋草の里への思いを残したと見るのは深読みが過ぎるだろうか。 (迷 20.09.27.)

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