枝豆も出さぬ店とは縁を切り 塩田 命水
枝豆も出さぬ店とは縁を切り 塩田 命水
『季のことば』
「枝豆」は秋の季語。まだ熟していない青い大豆を枝も莢も付いたまま塩茹でして、笊や皿に盛って出す。お月見に供えることもあるので「月見豆」ともいう。枝付きだから枝豆なのだが、莢だけで出てくることがほとんどだ。居酒屋などでは、冷奴(夏の季語)と並び〝とりあえずビール〟と共に手軽なつまみとして注文することが多い。最近は行く機会がなくなったが、ビアガーデンでは枝豆と焼鳥以外、頼んだことがないような気がする。冬でも電子レンジでチンした暖かな冷凍枝豆が付きだしで出て来たりするが、これはこれで意外に旨い。
とまあ、枝豆について飲み屋に限定した話を展開したが、掲句はお酒中心の飲食店が舞台だと思えるからだ。何しろ作者は怒っている。枝豆が食べたいのに注文したら、ない、と言われむくれているのか、枝豆すら供しようとしない店の態度に憤慨しているのか、十七音からは読み取れない。とはいえ、筆者も何となく同調する。そうだそうだ、そんな店はこっちから願い下げだい、と。
歳を取ると、詳しくは知らないけれど、前頭葉がなんとか、海馬がどうとかで、こらえ性がなくなるらしい。思い当たる節は多々ある。ちょっと糸がもつれると、すぐに「ええい、もう」、とほぐす努力を省いてぶち切ってしまいたくなる。どういう状況で、どんな事情があったのか、機会があったら作者に聞いてみたい。枝豆でも食べながら。
(双 20.09.21.)