夜這星岬で追った夢どこへ 荻野 雅史
夜這星岬で追った夢どこへ 荻野 雅史
『この一句』
同じ句会に「青年はみなストーカー夜這星 青水」というストレートな言い方の句もあった。「夜這い」という言葉が平気で語られていたのはいつ頃までのことだったろう。半世紀前、昭和四十年代くらいまでか。粗野で卑猥な響きもあるが、一方極めて開けっぴろげで人間的、健康的でもあったのだ。
しかし、実際のところは、昭和三、四十年代の都会の青年男女はうぶなもので、互いに思いを寄せながら、手を握り合うまでにえらく時間がかかるといった塩梅だった。だから大学のサークル活動か何かで海山に合宿に出かけ、夜になって女子のバンガローに夜討ちを掛けよう、夜這いだ、などと威勢のいいことを言い合いながら出発しても、いざ近くに来ると進めなくなって、「わあーっ」と蛮声を張り上げただけで引き上げるなんていうありさまである。
現在のように、交際を大して深めもせずに、あっさり男女の仲になってしまって「しょうがない結婚」したり、十代のシングルマザー続出なんてことは考えられもしなかった。
この句も、頭に「夜這星」を据えているから、「追った夢」も恐らく恋の雰囲気を帯びたものに違いない。うぶだった自分を懐かしんでいるのだろう。そして、中高年のペーソスも漂ってくる。
(水 20.09.20.)