夏山の青に染まりて羽ばたきぬ 篠田 義彦
夏山の青に染まりて羽ばたきぬ 篠田 義彦
『この一句』
「羽ばたく」というからにはある程度大きな鳥だろう。両翼を広げて上下に動かして飛ぶのが「羽ばたく」だから、原義からすれば雀などの小鳥だって羽ばたくのだが、何となく大空を悠然と飛翔する鳥が目に浮かぶ。ことに詩文では雀や四十雀が「羽ばたく」様を殊更うたうことは少ない。
となると、夏山を背景に羽ばたくというこの鳥は何だろう。峨々たる高山だと鷲や鷹が似つかわしい。緑豊かな里山、そこから少し奥に入った千メートル級の山ではどうか。そこには鷹も鳶も羽ばたき舞うが、私はこの句を見た時に瞬時に白鷺を思い浮かべた。
里山の一角に営巣し初夏から夏場を通して子育てに励む。大空を舞い、獲物の蛙や小魚のいる所を見つけると降りてやみくもに呑み込んで、巣に戻り吐き出しては雛に与える。夏の鳥として日本人にお馴染みで、夏の季語になっている。真っ青な空に真っ白な翼を大きく羽ばたく姿はとても印象的である。
「青に染まりて羽ばたきぬ」という軽快なリズムが、若者が世の中に出て大きく羽ばたこうと意気込んでいる姿と二重写しになって、爽快な気分を抱く。コロナ籠もりにうんざりした者に取っては、清涼剤のような句でもある。
(水 20.09.11.)