走馬灯戻らぬ過去も廻りけり 加藤 明生
走馬灯戻らぬ過去も廻りけり 加藤 明生
『この一句』
掲句を選んだ後に少し考えてしまった。「戻らぬ過去?」。過去はもともと戻らないものなのだ。この句に「戻らぬ」は不要ではないだろうか、と。コロナ騒動のため、幹事からのメールを受けたり、返信したりの句会である。句会の幹事に選句の訂正を頼もうかと思ったが、手間を掛けるほどのことではない、と思い直し、そのままにしておいた。
その夜、布団に横になると自然に「戻らぬ過去」が頭に浮かんで来た。「戻らぬ過去も廻りけり」。理屈抜きに、やはりいいなぁ、と思ってしまう。人や馬や富士山や、さまざまなものが廻っていく。走馬灯は戻らぬ過去を思い出させてくれるものらしい。昔、諦めたこと、挑戦出来なかったこと、嬉しかったこと、恥ずかしかったことも・・・。
縁日などで走馬灯を見たのは子供の頃のことだ。きれいだけれど、アトムや恐竜が出てきたらもっといいのに、などと思っていた。その頃は過去を振り返るなど絶無と言っていい。「過去は戻らぬ」などと思うのは中年、いや老年になってからではないだろうか。私がこの句を見て、「いいなぁ」と思った理由が次第に明らかになって来た。
(恂 20.09.10.)