夜這星恥ずかしさうにすぐに消え 井上庄一郎
夜這星恥ずかしさうにすぐに消え 井上庄一郎
『季のことば』
「夜這星(よばいぼし)」は流れ星のこと。ほとんどの歳時記では流星の傍題となっている。流れ星がなぜ夜這星なのか。出題した大澤水牛さんによると、夜空の一角に突然現れて、あれよと云う間に落下し消えて行く流れ星は、あたかも恋い焦がれた女の所に深夜忍び込んで行く男のようだ、と昔の人は面白がったのではないかという。ずいぶん昔からある言葉だそうで、清少納言が『枕草子』で触れたり、野村胡堂の『銭形平次捕物帖』にも出てくるほど。「夜這い」は「婚」の字をあて、求愛の意で「呼ばう」から転じた言葉とも言われるが、現代では立派な犯罪だ。
さて、このユニークな季語を詠むにあたって、「夜這」に引っ張られて作句した人と、「流星」で詠んだ人、その両方にとれる詠み方などが混在した。掲句は明らかに「夜這」の方だ。夜這いが見つかってしまったので、恥ずかしそうに消えた、と夜這星を表現した。少年のような初々しさで、御年93歳の作とは思えないほど若々しい。昭和一桁生まれは、慎み深い方が多いのだろう。
別の一句。中嶋阿猿さんは「来ぬ人を迎へにゆくや流れ星」と詠んだ。来ないならこちらから迎えに行こう、とこちらは積極的だ。様々なキャリアを積んだ現代女性の作、というイメージが浮かぶが、「流れ星」を選んだのが奥ゆかしいところ。
(双 20.09.04.)