伝はらぬ届かぬ声や原爆忌    水口 弥生

伝はらぬ届かぬ声や原爆忌    水口 弥生 『この一句』  「核兵器」が「悪」であることは、思想信条の違いを越えて誰もが認めている。一瞬にして何十万人を殺してしまう兵器などあってはならない。にもかかわらず、核兵器を保有する国が徐々に増えて行く。  「なんとかしなければいけない」という声が盛り上がって、1970年には国連による核拡散防止条約(NPT)が発効(2015年に無期限延長を採択)した。「1966年末現在既に核兵器を保有している米、露、英、仏、中」は保有を認めるという実に理不尽な条約ではあるが、とにかく、これ以上、全世界が核兵器開発競争などを始めないようにという抑止力にはなった。しかし、その後、「核兵器を保有または開発しているのではないか」と疑われる国が、イスラエル、イラン、北朝鮮など続々と現れ、NPTの再検討会議が再三開かれたが、なかなか結論が出ない。殊に2015年にオーストリアが提案した「核兵器禁止文書」の採択に、なんと、唯一の被爆国である日本が賛同しなかった。近隣に中国、北朝鮮、ロシアと核保有国があり、それらから国を守るため「アメリカの核の傘の下」に入っているからだというのが理由である。  毎年、原爆忌が廻って来るたびに、核兵器の悲惨さとその廃絶が叫ばれるが、その思いは「伝はらぬまま届かぬまま」75年たってしまった。そうした思いを俳句にすると、どうしても理屈っぽくなってしまいがちだが、「敗戦忌」と共に詠み繋いで行くことが大切だ。 (水 20.08.27.)

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