原爆忌一秒前と一秒後 星川 水兎
原爆忌一秒前と一秒後 星川 水兎
『この一句』
この句を読んで真っ先に一本の映画を思い出した。『TOMORROW 明日』という昭和63年夏公開の黒木和雄監督作品だ。舞台は長崎。昭和20年8月8日のある一家を中心とした人々の悲喜こもごもの暮らしを描く。原作は井上光晴の『明日 一九四五年八月八日・長崎』。
戦時下、つましい結婚式を挙げる若い二人。式の最中に急に陣痛に苦しむ新婦の姉。式の帰り道、呉に行った恋人が音信不通と友人に打ち明ける新婦の同僚。一家も一家を取り巻く人々も、それぞれの昭和20年8月8日を淡々と生きている。翌朝、姉は難産の末、無事男の子を出産する。そうして迎えた9日午前11時02分。映画はここで終わる。恥ずかしことに、ほとんど覚えてないのでもう一度おさらいしてみたが、細部はともかく観終わった後のやるせなさは、今でも鮮明に覚えている。
掲句は、「なにげない当たり前の日常」が、ある一瞬を境に一変するさまを詠んだ。大量殺戮兵器が炸裂する直前と直後を。多少、理が勝っているのか選んだのは筆者も含め男ばかりだったが、内容は深い。重いテーマ、重い季語だが、「終戦日」とともに「原爆忌」も毎年詠むべき、とは句会の兼題を担う大澤水牛さん。なにげない日常、のありがたさはコロナ禍の今、一入だ。
(双 20.08.26.)